ぱすてる通信 vol.5 (1997.3発行)
  1. 西前四郎先生のこと  井上千佳子




西前四郎先生のこと  井上千佳子

 「いつかある日 山で死んだら 古い友よ 伝えてくれ・・・」と言う歌をご存知でしょうか。歌集には「作者不詳」となっていて(20年前)「実は俺が作ったんや、山仲間には知られているんだけど」と高校生だった私たちに話してくれた英語の先生が西前先生です。
 いつもごっつい革の重い靴を履いて(真夏の暑い時でも)のっし、のっし、と廊下をゆっくり歩いていました。山歩きのトレーニングのためらしい、結構登山家としては有名らしいと先輩から聞いていました。
 ある時、海外へ登山隊を組んで隊長として行かれました。結果は、登頂成功したもののアタックした2人の遭難死でした。それまでも山から帰ってくると日に焼けてホッソリとなっていましたが、そのときはげっそりとやつれて歩く後姿も痛々しかったのを覚えています。
 あまりご自分のことを語ったりしない口の重い先生でしたが、アラスカの冬の山に挑戦したことを本に書かれました。そんな冒険をしていたなんて全く知りませんでした。もう、とっても面白くドキドキして、ホロッとして、夜を徹して一気に読んでしまいました。残念なことに西前先生は出版される直前に事故で亡くなられました。
 もっと話を聞きたい、教えて欲しいことは山ほどあるのにと悔しい思い出一杯です。でもこの本の中に「教え」が散りばめていると思って今度はじっくりかみしめて読もうと思います。
 是非読んでみてください。「山」が好きになりますよ、きっと。

 「冬のデナリ」 西前 四郎  福音館書店




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