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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2024.2)

「コンラート・ゲスナー『万有書誌』の書誌記述要素の起源と成立について」

雪嶋宏一氏(早稲田大学名誉教授)


日時:
2023年2月17日(土)14:30〜16:00
会場:
(Zoomミーティング)
発表者:
雪嶋宏一氏(早稲田大学名誉教授)
テーマ:
コンラート・ゲスナー『万有書誌』の書誌記述要素の起源と成立について
出席者:荒木のりこ(大阪大学附属図書館)、今野創祐(東京学芸大学)、岩尾希里沙(丸善雄松堂APS事業部九州センター)、加藤信哉(NPO法人知的資源イニシアティブ)、下山佳那子(八洲学園大学)、田窪直規(近畿大学)、棚次英美、堤美智子、徳原靖浩(東京大学附属図書館U-PARL)、長瀬広和、前川敦子(大阪大学附属図書館)、水谷長志(跡見学園女子大学)、他4名、雪嶋<17名>

1.『書誌学の誕生:コンラート・ゲスナー「万有書誌」の研究』について

発表者は著書『書誌学の誕生:コンラート・ゲスナー「万有書誌」の研究』(日外アソシエーツ、2022年12月刊、449 pp.)を刊行し、2023年度日本図書館情報学会賞を受賞した。 しかしながら、同書には若干の誤植もあったため、以下、その訂正を行う。

正誤表
ページ 箇所
4 下から7行目 資料管理課 整理課
46 下から2行目 Christopher Christoph
205 表9-6 Colines 重複を除く版数 42 40
278 図10-1キャプション アルド印刷所があった場所 アルド印刷所があったとされる場所
279 14行目 6業者 7業者
397 下から11行目 裏透けた 裏付けた

2.ゲスナー(Gessner, Conrad, 1516-1565)の生涯

発表者は以下の4期にゲスナーの生涯を区分した。

第1期:幼少期 (1516-1531) 基礎教育期間:チューリヒ生まれ(5月26日)、大叔父ハンス・フリックに育てられ、フラウミュンスター教会の学校で初等教育(ラテン語習得)、グロスミュンスター教会附属カロリヌム学校で中等教育(ラテン語とギリシア語学習)を受ける。

第2期:留学時代 (1532-1542) 高等教育期間:チューリヒ市の奨学金(ツヴィングリが創設)でシュトラスブルク(ヘブライ語)、ブールジュ(ギリシア語、法学)、パリ(大学図書館利用)、シュトラスブルク(ヘブライ語)、チューリヒ(印刷所の手伝い、結婚)、バーゼル(医学)、ローザンヌ(ギリシア語教授)、モンペリエ(医学、解剖学、薬草学、博物学)、バーゼル(医学博士号取得)に滞在。

第3期:学者としての前半期 (1542-1549)教師・学者としてスタート:カロリヌム学校の哲学・物理・倫理学講師をつとめ、フランクフルト・ブッフメッセ訪問、ヴェネツィア旅行、アウクスブルク旅行をおこなう。『万有書誌』、『総覧』、『神学の分類』等執筆。

第4期:学者としての後半期 (1550-1565)カロリヌム学校教授、チューリヒの市医、聖堂参事会員をつとめる。『動物誌』全5巻(第5巻は死後刊行)、『ミトリダテス』、『ガレノス全集』校訂、『薬物誌』校訂、『医学書簡集』等執筆。ペストの治療中にペストに感染して死亡(12月3日)。

著作:生前に63書、死後13書刊行(すべてラテン語)。ジャンルの内訳は下記の通り。 天文学1,書誌学6,植物学10,栄養学2,薬学5,文献学2,哲学9,物理学3,地理学1,地学1,温泉療法1,言語学5,医学17,神学3,動物学7

3.『万有書誌』の体系

『万有書誌』は以下の4冊の図書によって構成されている。

  1. 『万有書誌』Bibliotheca universalis, Zürich: Christoph Froschauer, 1545. fol. 650 leaves (VD 16 G 1698):著者名姓順の著者名目録
  2. 『総覧』Pandectarum sive Partitionum universalium Conradi Gesneri, Zürich: Christoph Froschauer, 1548. fol. 387 leaves (VD 16 G 1699):21分類中の1-19類の目録
  3. 『神学の分類』Partitiones theologicae, Pandectarum universalium Conradi Gesneri, Zürich: Christoph Froschauer, 1549. fol. 180 leaves (VD 16 G 1700):第21類(神学)の分類目録と索引
  4. 『万有書誌補遺』Appendix Bibliothecae Condardi Gesneri, Zürich: Christoph Froschauer, 1555. fol. 114 leaves (VD 16 G 1702):リュコステネス『すべての著者の一覧』に対抗するための著者名順の補遺目録

4.『万有書誌』(Bibliotheca universalis, 1545)の概要

1 recto は標題紙であり、収録対象を明記している。収録対象は以下の通り。

  1. ラテン語、ギリシア語、ヘブライ語の3言語によるすべての著者たちの書物。
  2. 今日に至るまで現存しているもの。
  3. 現存しないもの。
  4. 古いもの。
  5. 最近のもの。
  6. 学者によるもの。
  7. 学者でない者によるもの。
  8. 出版されたもの。
  9. 図書館に埋もれているもの。

5v-7rには調査対象図書館と参考文献が説明されている。6vにはそれらの一覧がある。 図書館については以下を記載している。

  1. ローマのヴァチカンあるいは教皇[図書館]
  2. フィレンツェのメディチ[図書館]
  3. ボローニャの聖救世主[図書館]
  4. ヴェネツィアのベッサリオン[図書館]
  5. 聖ヨハネ&パウロ[図書館]、その他
  6. ヴェネツィアでは皇帝の大使貴顕なるディエーゴ・ウルタード・デ・メンドーサの[図書館]

参考文献については以下を記載している。

  1. ラファエレ・ウォラテッラヌスの『人間の学』
  2. ベルナルドゥス・ルティリウスの『古の法律家の法律について』
  3. ヨハンネス・フィカルドゥスの『1190年以降に有名になった法律家の法律について』
  4. ペトルス・クリニトゥス、『ラテン詩人について』
  5. リリウス・グレゴリウス・ギラルドゥスの『詩人たちの博学なる対話10編が記録された歴史』
  6. シンフォリアヌス・カンペギウス、『医学、その他の著者たちについて』
  7. ヒエロニュムス『聖職にある著者たちについて』
  8. ゲンナディウス『聖職にある著者たちについて』
  9. ヨハンネス・フィカルドゥスの『教会法と市民法における昔の法律家から我々の時代に至るまでの最近の法律家のすべての著者たちの2つの索引』
  10. ヨハネス・トリテミウスの『聖職にある著者たちあるいは貴顕なる人々の目録』

9r-18rは著者名の姓あるいは出身地名を見出しとする著者の名前を検索する索引であり、 3欄組によると2,850名の著書の書誌事項が収録されていることがわかる。

Fol. 1-631 (1,262ページ分)の著者名目録でありアルファベット順に記載されている。 収録された著者名の項目には以下のような4つの特徴がある。

  1. 著者名(名・姓順)のもとにその略伝、著作の書誌記述、その目次や序文の抜粋。
  2. 著者名のもとにその作品や書簡が他人の著作の中で言及されていることを簡略に記述する項目。
  3. 著者について「別な人名を見よ」という単純なクロスレファレンス(項目の末尾等に示される「別な人名をも見よ」というクロスレファレンスは除く)。
  4. 名前について一般的な説明をする辞典的項目。

5.ゲスナーの情報源

ゲスナーは以下の情報源を明記している。

Ⅰ.分野別の情報源

  1. 聖職者に関する情報源
  2. 散逸した古代文献の情報源
  3. 医学関係の情報源
  4. 法学関係の情報源
  5. 古典の情報源
  6. 詩人に関する情報源

Ⅱ.図書館の蔵書および蔵書目録

  1. 実際に利用した図書館
  2. 図書館蔵書目録のみを利用した図書館
  3. 利用したのか目録情報のみを知っていたのか不明な図書館

Ⅲ.印刷販売書目録

ゲスナーが情報源とした印刷業者の印刷販売書目録と記述要素は以下の通りである。 『総覧』・『神学の分類』の各分類冒頭に同時代の20の印刷業者を顕彰する序文と彼らが刊行した書目を掲載しているが、そのうち以下の7業者の目録を掲載する。

  1. クリストフ・フロシャウアー(Christoph Froschauer, 1490-1564)、チューリヒ(『総覧』*6r-v)(ゲスナー自身が作成):著者名、書名、巻数、印刷年、判型
  2. パオロ・マヌーツィオ(Paolo Manuzio, 1512-1574)、ヴェネツィア(『総覧』f.107v-109r):言語、著者名、書名、判型、(印刷年)
  3. セバスティアン・グリフ(Sèbastien Gryphe, or Gryphius, 1493-1556)、リヨン(『総覧』 f. 117r-119v):著者名、書名(コンテンツを含む)、印刷年、判型
  4. クレチアン・ウェシェル(Chr?tien Wechel, 1522-54)、パリ(『総覧』 f. 165r-166v):書名、著者名、巻数、注記、価格
  5. ヨハン・ギムニヒ(Johann Gymnicus, 1485-1544)、ケルン(『総覧』 f. 257r-258r):著者名、書名、折丁数
  6. ジャン・フレロン(Jean Frellon, 1568歿)リヨン(『総覧』 f. 261r-v):著者名、書名、付録、印刷年、判型
  7. ヒエロニュムス・フローベン(Hieronymus Froben, 1501-63)とニコラウス・エピスコプス(Nicolaus Episcopus, 1501-63)、バーゼル(『神学の分類』 a2r-a3r):著者名、書名、印刷年、判型、シート数

6.ゲスナーが採用した書誌記述要素

収録された著者は大きく分けると以下の2通りである。

1)トリテミウスの書誌に由来:1世紀〜15世紀のキリスト教聖職者の著述家約970名を収録。

2)トリテミウスに由来しないギリシア・ローマの著述家、イスラム学者、ユダヤ人学者

ゲスナーの書誌記述の例を以下の著者名の項目で説明した。

以下、印刷本の書誌記述要素の成立について述べる。

『万有書誌』に収録された印刷本の版について、16世紀印刷本の書誌データベースの検索の結果、以下のことがわかった。

7.ゲスナーの近代性

箇条書きで記載するが、以下の通りである。

以上の発表を受けて、主に、以下の質疑があった。

なお、今回の月例研究会については、Zoomの映像を録画し、開催後一週間に限り、出席を申し込んだものの欠席された方にも、映像を配信した。

(記録文責:雪嶋宏一、今野創祐)